LIVING IN PEACE BLOG 2008年05月

お知らせ2008年5月16日 20:28

Kivaについて

 前回の掲載記事では「Kiva」(http://www.kiva.org/)の使い方に触れましたが、今回はKivaというサイトの内容を簡潔にご紹介したいと思います。

 

 

Kivaとはスワヒリ語で「合意(agreement)」を意味します。

 

 

・Kivaってなに?

 

 Kivaとは、貧困に直面している発展途上国の起業家を対象に、半年から1年程度の短期小口融資(マイクロ・ファイナンス)を紹介する団体ですKiva (organization) - Wikipedia, the free encyclopedia。

 

 現地の人が起業するのに必要な小口融資を1口US(日本円で約3千円)単位でインターネットを通じて集め、MFIs(micro finance institutions※)を通して現地の起業家に貸付を行い、さらに回収まで行います。

 

※MFIとは、マイクロ・ファイナンスのサービスを提供する組織で、小規模な非営利団体から大規模の商業銀行に至るまで様々な形態があります。通常の金融機関からは借り入れることのできない人々に対して貸し付けを行い、資金制約に苦しむ人々の貧困からの脱出に寄与しています。

 

参照:http://www.kiva.org/about/microfinance/#2._What_is_an_MFI

 

世界的にも注目されていて、GoogleやYahoo!、Microsoftなどの企業がSupporterになっています。

 

参照:http://www.kiva.org/about/supporters/

 

 

・融資の仕組み

 

 

(1)貸し手はKivaのウェブサイト上に掲載されている起業家(entrepreneurs)のプロフィールを参照して融資先及び融資金額を決定します。Kivaは、集まった基金を世界の各地に展開するMFIsのうち、融資先に適したMFIに送金します(その際、融資金額のうち10%がKivaへの寄付=donationになります)。

 

(2)送金を受けたMFIは貸し手が選択した起業家に基金を分配します。 加えて、起業家に対して返済に向けたトレーニングその他支援も行います。

 

(3)一定期間を通じて(※)、起業家からMFIを通じてKivaへの返済がなされます。返済額は元金からKivaへの寄付額約10%を差し引いた額です。Kivaと提携している全MFIsの平均利子率が22.37%であるにもかかわらず、返済率は約97.25%と高い水準を維持しています。

 

 返済状況その他の情報は、Kivaのウェブ上にアップされ、また貸し手が希望すればメールで知らせてもらえます。

 

※ およそ6ヶ月~12ヶ月。期間は各起業家毎に異なります。その情報はプロフィールに掲載されています。

 

(4)貸し手はKivaを介して返済を受けます。返済を受けた貸し手は、返済された金額をもとに再度他の融資先を探すか、Kivaへ運営費のカバーとして寄付するかを選択できます。もしくは、そのまま回収することもできます。

 

 

・Kivaの特徴 

 

-個人による融資を可能にしたこと

 マイクロファイナンスと言えばノーベル平和賞をとったことで有名な「グラミン銀行」がありますが、名前からもわかるようにグラミン銀行の融資主体はあくまでも銀行でした。しかし、Kivaの場合はウェブを介することで、個人単位で途上国の人々に融資をすることを可能にしました。また、一口(約三千円)と、融資のしやすさも魅力です。

 

-直接の融資を可能にしたこと

 従来、発展途上国に対して融資をするには大手金融機関や国際機関を介する必要がありました。しかし、Kivaを介することにより、貸し手はウェブ上に開示されている起業家に対して直接融資することができるようになりました。

 

-貸し手のニーズにあった起業家

 個人が直接融資の意思決定をする際、融資先の起業家の情報が大切になります。Kivaのサイトに掲載されている多種多様な起業家の情報は、発展途上国の現地の状況や起業家の性質をよく知るMFIsによって提供されたものです。MFIsは具体的な審査をもとに、貸し手のニーズを満たす起業家の選定をしています。よって、貸し手は質の高い情報をもとに融資先を決定することができます。

 その結果が、返済率約97.25%という数字にも現れています。

 

-「顔の見える融資」

 Kivaを介して融資をした場合、貸し手は自らが希望すれば融資先の起業家の近況等の状況を逐一メールで知ることができます。このことは貸し手にとって直接のモニタリングになるわけではありませんし、借り手にとっても返済をする上での直接のインセンティブになるわけでもありません。

 しかし、従来の無機質な融資形態とは異なり、融資を、当事者双方の「顔がみえる」という形態にチェンジさせたことが、従来のマイクロファイナンスにはなかった点であり、Kivaのプロジェクトが成功裏に行われていることの間接的な要因になっているのかもしれません。

 

 

・日本における現状

 

 2008年5月現在、Kivaに出資している日本人の件数は約450件です。

 その他の国の状況としてはアメリカが約7790件、イギリスが約400件、フランスが約650件、オーストラリアが約2300件、韓国が約100件、スペインが約300件となっています。

 

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マイクロファイナンス情報2008年5月13日 19:56

Kivaの使い方

途上国の起業家(entrepreneur)に小口の融資を行える「Kiva」http://www.kiva.org/ という有名なサイトがあります。ここでは、このKivaを利用して実際に起業家に融資を行うまでの手順を説明します(クレジットカードが必要となります)。

 

1.まず、http://www.kiva.org/ にアクセスします。すると次のようなサイトが表示されます。

 

 

 

2.次にトップページの右上のメニューにある「Register」というリンクをクリックします。すると次のような画面になります。ここに必要事項を記入していきます。記入が終わったら、最後の□にチェックをいれてリンクをクリックします。

 

 

First Name:【必須】あなたの名をローマ字で記入します。

Last Name:【必須】あなたの姓をローマ字で記入します。

Email:【必須】あなたのEmailアドレスを記入します。

Confirm Email:【必須】もう一度Emailアドレスを記入します。

Password:【必須】6-12文字でパスワードを英数字で記入します。

Confirm Password:【必須】もう一度パスワードを記入します。

Referred by a friend?:紹介してくれた方がいる場合、その人のメールアドレスを記入します。

Display me as First name or Anonymous:登録後、サイト上にあなたの名を掲載許可するか匿名にするかを選択します。

Upload Photo:写真をサイト上に掲載したい場合は、その画像ファイルをアップロードします。

Occupation:職業を記載します。

 

 

3.「Welcome to KIiva!」という次のような画面が出てくれば登録成功です。

 

 

一番左にあるのが、起業家の写真です。

「Entrepreneur/Activity」には起業家の名前と業種が記載されています。

「Loan Info」は、希望融資額と今現在どれくらい融資が達成されているかが表示されています。

「Country / Partner」は、融資希望者がいる国名と現地で実際に融資業務を行うパートナー機関の名称が記載されています。

 

 

4.3の画面の「Description」の中の「more」をおすと次のような詳細画面に移動します。ここで「Lend now」と書いてあるところの金額を自分の希望融資金額に設定して「Lend now」をクリックします。

 

 

 

5.次のページでは、Kivaへの寄付(donation)を求められます。融資金額の10%が表示されていますのでその状態でボタンをクリックします。

 

 

 

6.クレジットカードの必要事項を記載する下記のような画面が表示されます。必要事項を記載して最後にオレンジのボタンをクリックします。これで融資の準備が完了しました。融資実行画面で自分の融資金額を確認した上で[Check out」(支払い)ボタンをクリックし融資を実行します。

 

 

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マイクロファイナンス情報2008年5月5日 17:31

グローバル総合金融サービス企業とマイクロファイナンス

1.グローバル総合金融サービス企業とマイクロファイナンス

 

開発途上国における小口融資を目的としたマイクロファイナンスですが、今日では、ゴールドマン・サックス、シティグループ、リーマンブラザーズといった、グローバル総合金融サービス企業も、当事業に参画を始めています。

 

今回は、2007年5月にモルガン・スタンレーが証券化して販売したBlue Orchard Loans for Development 2007-1(“BOLD2”)について、取上げてみます。

 

2. モルガン・スタンレー Blue Orchard Loans for Development 2007-1

 

モルガン・スタンレーは、スイスを基点とするマイクロファイナンス投資ファンドに特化したマネジメント会社、ブルーオーチャードと提携して、2007年5月に、ローン担保証券(Collateralized Loan Obligations、以下、「CLO」。)を開発しました。アゼルバイジャン、ボスニア、カンボジア、コロンビア、ケニア、モンゴリア、ニカラグア、ペルー、セルビアといった、12カ国発展途上国に基点を置く20マイクロファイナンス機関(Micro Finance Institutions 以下、「MFI」。)への無担保貸付債権を集めて債権プールを作り、これを裏付けに発行されるCLOを開発、販売しました。マイクロファイナンスの証券化です。

 


ヨーロッパ、アメリカの銀行、保険会社、投資信託、ヘッジファンドといった、21投資家から集められた110.2百万ドル(約1,100億円)相当の資金は、MFIを通じて、途上国の70,000もの低所得層の起業家に融資されました。

 

途上国での融資は、現地通貨によって行われますが、一方、投資家を為替リスクよりヘッジするために、通貨はUSドルや英国ポンドといったCLO発行通貨にスワップされます。

 

モルガン・スタンレーとブルーオーチャードは、2006年にも同様のローン担保債権(BOLD1)を発行していますが、今回BOLD1との大きな違いは、トランシェを異なるリスクレベルで切り分けることで、一部トランシェについて、スタンダード&プアーズによる格付けを得ることが出来たことです。各トランシェについての情報は下記の通りです。AA格付は、当時のウォールマート等と同様です。

 

 


(出所:http://www.morganstanley.com/about/press/articles/4977.html

 

2008年3月にリリースされたブルーオーチャード ニュースレターによると、20MFI全てが、同月、四半期利払いを期日通りに行っており、投資家に対しても、既に、過去3回分配を行っています。

 

また、20MFIは、2007年中、全地域において成長を続けており、全資産は、30.7億USドル(約3,070億円)になります。以下のグラフからもその様子は伺えます。

 


 

 

 


(出所:http://www.blueorchard.org/jahia/Jahia/site/blueorchard/Products/pid/144

 

3. グローバル総合金融サービス企業とマイクロファイナンスの今後

 

ゴールドマン・サックスは、2008年3月に、今後5年間で1,000億USドル(約10兆円)をマイクロ・ファイナンス顧客、すなわち、途上国におけるエンド融資利用者の教育に投資していくと発表しています。彼らに、ビジネス・プランニング、マーケティング方法等を学習してもらうことにより、彼らのビジネス・スケール、ひいては、マイクロファイナンス事業の拡大を目指しています。

 

このようなグローバル金融サービス企業の日本におけるマイクロファイナンスに関する取組みなどについても、今後、レポートしていきます。

 

 

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マイクロファイナンス情報2008年5月3日 16:38

ファイナンスの基礎-ポートフォリオについて

ここまで、ファイナンスの基本的なコンセプトであるリスクとリターンの関係について考察しました。次は、ファイナンスのもうひとつの重要なコンセプトであるポートフォリオについて検討しましょう。

 

ある1つの投資対象のみに投資をしている場合には、リスクとリターンの計測は単純に期待値と分散を利用することは正しい方法です。しかし、複数の投資対象に投資した場合それは正しい方法なのでしょうか?

 

たとえば、ある自動車会社Aの株式のみに100万円を投資した場合を考えてみましょう。もしこの企業が倒産したら100万円すべてを失うことになります。

 

しかし、もしA社のみではなく食料品会社B社にも50万円づつ投資した場合を考えてみましょう。A社が倒産してもB社は存続していますので、50万円の損失でおさえられます。

 

この例からも、投資対象を複数にしたほうがリスクは減るような感じがします。昔から「卵を同じ籠に入れるな」という格言がありますが、まさしく上記の例のようなことです。関係のない独立したものにより多く投資することでよりリスクを分散させることができるということです。これを「大数の法則」といいます。「大数の法則」は保険を考えるとさらによく理解できると思います。人の死は通常の状態であれば独立に発生します。ですから1人よりも1億人の保険者がいたほうが保険会社のリスクが分散されていることは直感的に分かると思います。

 

さらに進んで、投資商品の最適な組み合わせをどのように決定したらいいかを考えます。これに解を与えるのが、ポートフォリオ理論です。ポートフォリオ理論の基本は、より低いリスクでより高いリターンをえられる投資商品の組み合わせを探ることにあります。

 

まず下記の図を見てください。先ほどのA社とB社のリスクとリターンの関係がそれぞれAとBだとします。青い点の軌跡はA社とB社の保有比率を変化させていったときのリスクとリターンの組み合わせの軌跡です。これを機会集合とも呼びます。

 

まず分かることは、A社だけに投資をすることは合理的ではないということが分かります。なぜなら、A社がもつリスクを一定にするとより高いリターンをえられる機会が存在するからです。

 

ここで機会集合の中でもっともリスクの小さい点を最小分散ポートフォリオ(Minimum Variance Portfolio)といいます。図ではMVという点です。

 

投資家は、このMVからBまでの軌跡の中で投資を決定することが合理的であることが図から分かります。このMVからBまでの軌跡は効率的フロンティアと呼ばれています。投資家は自分のリスク許容度に応じて効率的フロンティアから投資比率を決定することになります。

 

 


今は2資産の場合を考えましたが、これを多資産に拡張することで新しい効率的フロンティアが発生することになります。そして投資家はその効率的フロンティアの中から自分のリスク許容度に応じて投資比率を決定することになります。

 

ここで、図のような曲線が生じるためには、AとBの相関係数ρとしたときに-1<ρ<1になることが必要であることが分かっています。相関係数とはAとBの関係のことで、たとえばA社の株価が上昇するときにB社の株価も上昇するようであれば+の値をとり、逆であれば-の値をとります。まったく関係のない動きをするときは0の値をとります。この相関係数が-1に近づけば近づくほど分散化が効いてきます。相関係数のとりうる値は-1≦ρ≦1となります。

 

ポートフォリオの基本的な説明は以上のとおりです。

 

実はもうひとつポートフォリオ選択について重要な事実があります。それはリスクの無い資産を仮定すると、投資家のリスク許容度に関らず最適な投資比率が決まってしまうという事実です。これは分離原則として知られています。

 

今、リスクフリーレートをRfとします。図のRfから効率的フロンティアに接線をひいてその接点をXとします。すると、リスクフリーレートでの借り入れが可能とすると投資家は自分のリスク許容度に関らず危険資産について点Xの投資比率を選択せざるをえなくなるのです。

 

参考文献

野口悠紀雄「金融工学、こんなに面白い」文春新書(2000)

野口悠紀雄・藤井眞理子「現代ファイナンス理論」東洋経済新報社(2005)

 

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マイクロファイナンス情報2008年5月3日 16:31

ファイナンスの基礎-割引現在価値

ファイナンスの重要なコンセプトに割引現在価値というものがあります。たとえば、次のことを考えてみましょう。現在あなたの手元にある100万円と1年後の100万円は同じ価値をもっているでしょうか?直感的に同じ価値ではないと感じると思います。現在手もとにある100万円はすぐにそして確実に使えますが、将来の100万円は現在すぐにそして確実に使うことはできません。つまり将来の不確実な100万円よりも現在の確実な100万円のほうが価値は高いはずなのです。

 

それでは、将来の100万円が現在どれくらいの価値をもっているかをどのように計算したらいいでしょうか?次の事例を通して検討しましょう。

 

今、1年満期・金利1%の無リスク債券に100万円を投資したと考えましょう。あなたは1年後に101万円をえられるはずです。

 

次に、リスクのあるエマージングマーケットの1年満期・金利10%の債券に投資したとしましょう。あなたは不確実ではありますが1年後に110万円をえられるはずです。

 

上の2つの事例から何が分かるでしょうか?リスクの高い債券のほうが見返りとしてのリターンである金利が高いことが分かります。そして、最初の例では市場は現在の100万円と将来の101万円が等価であるような金利を提示しているということがいえます。それはつまり、将来の101万円を1%で割り戻せば100万円になるということであり、この過程を経て算出された100万円のことを将来の101万円の現在割引価値と呼びます。そして、ここで割戻しに利用した1%のことを割引率とかディスカウントファクターと呼んでいます。

 

同様のことはもちろん不確実なエマージングマーケットへの投資にもいえます。

 

ここで重要なことは、不確実性の高い投資ほど割引率が高いということです。リスクの高いキャッシュフローほど高い割引率で割り戻さなければいけないということです。ですから、不確実性の高い投資を行った際の将来想定されるキャッシュフローを無リスク金利で割り戻してしまったら、割引現在価値を過大評価してしまうことになり、投資判断を誤らせてしまうことでしょう。投資の際は、不確実性の高さにフィットした割引率を設定することがとても重要なのです。

 

参考文献

リチャード・ブリリー、スチュワート・マイヤーズ他「コーポレートファイナンス 第8版」日経BP社(2007)

 

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マイクロファイナンス情報2008年5月3日 16:25

ファイナンスの基礎-リスクとリターンについて

ファイナンスが教えてくれる重要な知見の一つに、より高いリスクをとればより高いリターンを得られるというものがあります。逆にいえば、より高いリターンを得るためにはより高いリスクをとらなければならない、ということになります。これは私たちの経験上、受け入れやすい事柄でしょう。

 

この基本的なリスクとリターンの関係をもう少し深く考えてみましょう。次のような事例を想定してみます。あなたは投資家です。これから100万円を投資します。投資対象は2つあり、ひとつは1年後に確実に110万円になって戻ってくる国債で、もうひとつは、55%の確率で200万円、45%の確率で0円になって戻ってくるベンチャー企業への投資です。あなたはどちらの投資対象を選ぶでしょうか?

 

こうした選択意思決定の基準のひとつは期待値での比較です。国債の期待値はもちろん110万円です。ベンチャー投資の期待値も同じく110万円です(200万円×55%+0円×45%)。国債もベンチャー投資も期待値が同じですから、期待値だけで意思決定をする人はどちらの投資も選んでもいいと考えるはずです。

 

しかし、直感的に考えて何かおかしい感じがします。なぜなら、不確実な110万円よりも確実な110万円を選ぶほうが合理的に感じられるからです。

 

ただ、世の中には次のように考える人もいるでしょう。「確かに国債は確実に110万円をもらえるが、ベンチャー投資では200万円を得られるチャンスがある。だからベンチャー投資を選ぶ。」。この人の考え方に従えば、国債よりもベンチャー投資のほうががいいという意思決定になります。

 

それでは一体誰の意思決定が正しいのでしょうか?

 

実は、リスクに対する考え方によって答えは変わってくるのです。つまりリターンの期待値比較だけでは答えは出ないということでもあります。

 

ここで、リスクとは不確実性のことと考えましょう(もっと細かく考えると、ある確率分布に従う不確実性と確率分布が分からない不確実性があります。)。ファイナンスでは、リスクとは期待値からのばらつきと定義します。この意味でのリスクを分散とかボラティリティといったりします。ちなみにファイナンスでいうリスクは一般的な意味とは違い、マイナス方向だけではなくプラス方向のばらつきも含んだ概念であることに注意が必要です。

 

さて、ここでリスクがそういうものだとしてくじの意思決定の問題に戻りましょう。

 

もし、リスクに無関心な人がいるとすれば国債もベンチャー投資も同じ価値となるでしょう。ファイナンス的にいうと、国債もベンチャー投資も同じ期待効用(簡単にいうと幸せ)をもたらすといえます。

 

では、リスクを回避する人だったらどのような意思決定をするでしょうか?この場合確実な110万円がもらえる国債を選択するはずです。なぜならこのような人は期待値が同じであれば、よりリスクの低い投資対象を選ぶからです。

 

逆にリスクが好きな人はどのような意思決定をするでしょうか?この場合はリスクを回避する人は逆に、ベンチャー投資を選ぶことになります。なぜならこのような人は同じ期待値であればよりリスクの高い投資対象を選ぶからです。

 

このように、リスクに対する考え方が異なる主体をそれぞれ想定することで意思決定は異なってきます。ただ、ファイナンスでは期待値が同じであればよりリスクの低い投資対象を選ぶ主体が合理的な主体であるとして議論をします。このような主体の性質をリスク回避的といいます。

 

それではこのようなリスク回避的者を前提として再びリスクとリターンについて考えてみましょう。

 

今まで述べてきたように、リスク回避者は同じ期待値であれば国債を選ぶという意思決定を行います。では、リスク回避者はベンチャー投資の期待値がどんなに高くても国債を選ぶのでしょうか?そんなことはありません。ベンチャー投資を選択してもいいと判断するくらい期待値の高いベンチャー投資であればベンチャー投資を行うはずです。つまり、リスクに見合った見返りがあればリスク回避者でもベンチャー投資をを選ぶことがありえます。

 

まさしく、これがファイナンスでいうリスクとリターンの本質的な関係です。つまりリターンとはリスクの見返りなのです。リスクが高いほどリスク回避者はリターンを要求します。そして、この投資選択問題で国債の価格と、くじBが選択されるようなベンチャー投資の価格の差は「リスクプレミアム」と呼ばれます。そして、リスク回避者が国債とベンチャー投資に対して同じ期待効用をもつとき(ファイナンスでは無差別といいます)、そのベンチャー投資の価格を「確実性等価」といいます。ですから、国債の価格にリスクプレミアムを足したものがベンチャー投資の価格ということができます。

 

参考文献

野口悠紀雄「金融工学、こんなに面白い」文春新書(2000)

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