sugi 2020年12月26日 16:00

インパクト投資のエコシステム

セキュリテを通じたインパクト投資のエコシステム、というテーマで、少し書いてみたいと思います。

「エコシステム」とは、もともとは自然界における「生態系」のことです。生物と周りの環境を包括した言葉で、例えば、食物連鎖などの物質の循環等、動物や植物、微生物等がそれぞれが相互に作用し、協調のとれた状態で、その生態が維持されている様子を指すことが多いと思います。

ここでは、当社のセキュリテというインパクト投資のプラットフォームを通じて、事業者やその先のお客様、出資者や当社、その他のパートナーの皆さまが、どのように関係し、この仕組みが持続的に維持されているのかを、エコシステムという言葉を使って考えていきます。
 

1.きっかけ


個人的な話になりますが、先日、ファンドの分配金を使って、リンクルージョン社の「ミャンマー農村ラストマイル配達ファンド」(以下、「農村LMファンド」と言います)に1口出資をすることができました。それをきっかけに「エコシステムだ…」ということを考えるようになりました。

私は、2009年からセキュリテのファンドへの出資を続けています。最初の数年はその都度、新たな資金を投入して出資をしていましたが、最初のファンドから分配金が入って以降は、基本的にファンドの分配金を、新たなファンドへの出資に充てています。もちろんタイミングによっては、分配金だけでは足りないこともあり、そうした際には、不足分については新たに資金を投入しながら、少しずつ、自分のセキュリテポートフォリオを増やしてきました。

今回は、以下の通り、「LIPミャンマーMJI貧困削減ファンド1」(以下、「MJIファンド」と言います)の分配金を含め、今年の9月25日から12月9日までの間に入った複数のファンドの分配金が合計36,601円あり、そこから32,400円を使って、「農村LMファンド」に1口出資しました。

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(上記の画像は、私のセキュリテ「マイページ」からの抜粋です。MJIファンドの分配金は3口分の金額です。画像中、「遅延損害金」の記載がありますが、支払い期日に遅れる場合には、分配金と共に遅延損害金が支払われます。特に今年はコロナの影響で支払を遅延するケースが見られます)

セキュリテのファンドは、金融商品にはなりますが、元本保証はなく、一定程度のリスクがあり、かといって、ハイリターンも指向しておらず、資産形成目的の投資にはおすすめはしておりません。出資の際には、必ずそのお金が、余裕資金かどうか、なくなっても生活に困らないお金かを確認した上で、出資いただいています。実際、私自身も、出資に際し新たな資金を入れる場合には、月々のキャッシュフローの中から、出せる範囲での小口の出資をしています。

実は今回の出資にあたり、正直なところ、今年は何かとお金がかかり、手元の資金が心許なかったので、新たな資金は入れずに、分配金だけで出資を完結できたことは、とても有難かったです。この時に、すごく思ったのは、「これが寄付だったら、できなかったな」ということでした。そもそも最初のファンドが寄付であれば、分配金は生じませんし、また、今回のミャンマーのファンドが、寄付の募集であれば、手元資金が心許ない中、出せない金額ではなかったとしても、「寄付しよう」という気持ちにはなれなかっただろうな、と思いました。

ファンド対象の事業が継続し、資金が循環している間は、元手を増やさなくても、分配金を使用して継続的にファンドへの出資ができること、つまり持続的な資金循環が生まれうることが、セキュリテのエコシステムの核であると言えると思います。

 

2.ミャンマーでの循環


今回、通常の分配金からの再投資、ということ以上に「エコシステム」ということを意識したのは、「MJIファンド」の初めての分配金を「農村LMファンド」へ、つまり、ミャンマーからミャンマーへの再投資につなげることができたからでした。

ここで、MJIファンドの分配金がどのように生まれ、LMファンドへの出資金が今後、どのように使われていくのか、少し紹介したいと思います。

まず、MJIファンドは、MJIがミャンマーでマイクロファイナンス事業を行うためのファンドです。出資金はMJIが行う貸付への原資となり、ミャンマーの主に女性たちに貸し出されました。マイクロファイナンスを借りた女性たちは、その資金で事業を行い、事業の売り上げの中から、利子をつけて、MJIに借入を返済します。MJIの売り上げの源泉は、借り手の皆さんが支払う利子であり、セキュリテの出資者の皆さんへ支払われる分配金も、元を辿れば、借り手の皆さんが支払う利子が源になっています。

次に、農村LMファンドについてです。このファンドの営業者であるリンクルージョン社は、ミャンマーにおいて、①マイクロファイナンス機関向けのシステム提供や業務改善支援、②農村の小規模商店向けの食品・日用雑貨等の配達サービスの事業(コマース事業)を行っています。今回のファンドでは、このうち、②のコマース事業のための運転資金や設備資金に使われます。では、この「運転資金」とは、いったい何なのでしょうか。

このサービスの主な利用者は、農村部で自宅の軒先等を活用した小売店を営む女性たちです。彼女たちが直面する課題の一つが商品の仕入れですが、リンクルージョンは、こうした女性たちから、電話一つで注文を受け、翌日には商品の配達を行っています(事業の詳細は、ファンドページでご確認ください)。

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(小売店を営む女性。後ろに見える食品や化粧品等を仕入れて、販売しています)

中でも、このビジネスモデルの中で、私が特に素晴らしいなと思っていることは、リンクルージョンでは、その商品の代金を、注文時でも、納品時でもなく、後日に回収しているのです。そうすることで、女性たちは商品が売れた後に、その売り上げの中から支払えるようになります(とはいえ売れなかったら払わなくていいわけではありません)。これは、女性たちにとっては大きなメリットですが、リンクルージョンの視点に立つと、商品の仕入れから売上の回収までに時間がかかり、大きな負担になります。つまり、ここにも「運転資金」が必要になります。​

説明が長くなりましたが、ここで言いたかったことは、MJIファンドを通じて、ミャンマーの女性たちの事業により生み出された分配金が、農村LMファンドに出資されると、その資金は再び、ミャンマーの女性たちの事業のために使われ、彼女たちの事業の売上から、リンクルージョンを通じて、再び、私たちに分配金として戻ってくることになる、ということです。

実際、MJIのお客様の多くはこうした小規模商店を営んでおり、リンクルージョンの契約商店の約10%がMJIの借り手ということですから、MJIファンドの分配金をリンクルージョンに投資することでも、再び、MJIのお客様にも役に立てていただけます。もちろん、理想を言えば、MJIファンドの分配金は、次のMJIファンドに再投資できればいいのかもしれません。しかし、そのために分配金を支払い留保金として寝かせておくのは、もったいないことです。

お金は誰かのために生かされてこそ、価値が発揮され、社会的インパクトも生まれます。農村LMファンドは、期末一括分配のファンドで分配金が出るのは2025年9月頃になりますが、その時に、MJIか、リンクルージョンのファンドか、はたまた全く別のミャンマーのファンドが出ているかは分かりませんが、また新たな投資機会があることを楽しみに、現在、分配金をお持ちの方も、そうでない方も、ぜひこの機会にファンドへのご参加を検討いただければ嬉しいです。

(※なお、セキュリテのファンドは、元本保証はしておらず、ファンド対象事業の業績により、元本を割れることや、全く分配がされないこともありますので、ご留意ください。ファンドのリスク等の詳細は、各ファンドの匿名組合契約説明書をご確認ください)

 

3.10年でアジア3か国周遊~カンボジア→ベトナム→ミャンマー~


似たような話にはなりますが、次は時間軸を変えて、みてみたいと思います。

既に書いた通り、セキュリテでの私の最初の投資体験は2009年、日本で初めてのマイクロファイナンスファンドとして募集開始した「カンボジアONE」という、カンボジアのマイクロファイナンス機関向けのファンドからです。

これは、私が初めてつくったファンドでした。私は、当時(実は今も)、認定NPO法人のLiving in Peace(以下、「LIP」と言います)というNPOのマイクロファイナンスプロジェクトに所属し、仕事の傍ら、主に週末や終業時間後に活動をしていたのですが、このファンドを、マイクロファイナンスに関連するファンドを作りたいがために、ミュージックセキュリティーズに転職して、今に至っています。その時から、マイクロファイナンスのファンドに関して、当社はLIPと業務提携をしています。

そのLIPと当社で作ってきたマイクロファイナンスのファンド「マイクロファイナンス貧困削減投資ファンド」のシリーズは、2009年にカンボジア、2012年にベトナム、そして少し時間をおいて、2019年にミャンマーと展開してきました。その数14本。私も、すべてのファンドには参加できていないのですが、できる範囲で8本のファンドに出資しました。

そして、幸いなことにこれらのマイクロファイナンスのファンドに関しては、すべてプラス償還をしました。(為替変動により、想定より大きくプラスに働いたものもあります)。

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(上記の画像は、私のセキュリテ「マイページ」からの抜粋です)

私もこの時の分配金を使って、その後、他のファンドの出資に充ててきましたが、当時、同じように多くの出資者の方が、カンボジアのファンドの分配金を使って、ベトナムのファンドに出資していました。私は、その時にも、今回と同じように、寄付と投資の違いや、投資による資金の循環について、考え、何かしら発信していたと思います。しかし、今回がその時と少し違うのは、最初のカンボジアのファンドを募集してから、既に10年以上が経過しているということです。

「お金を働かせる」という表現がありますが、カンボジアへの最初の1口から始まって、この間、引き出さずに再投資をくり返した場合に、その1口がカンボジアで働き、日本に帰ってきて、その後、ベトナムで働き、また日本に帰ってきて、一度、日本国内の地方創生の事業に出稼ぎに行き、帰ってきて、次はミャンマーに働きに行く、まさにそのような、小口投資を通じた資金循環のエコシステムと言えるような事象が、セキュリテのインパクト投資のプラットフォームでは、起きているのです。自分は日本にいながらにして、新たな資金を投入することなしに、最初の元手だけで、3か国を周遊しながら、誰かの役にたち、価値を生んでいるのです。

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以上が、「セキュリテを通じたインパクト投資のエコシステム」について、今回、私が考えたことです。

私は必ずしも、寄付を否定するつもりはありません。寄付でしか成り立たないプロジェクトや状況もありますし、セキュリテでも分配金を寄付する仕組みや、特に自然災害等の後には、義援金プロジェクトを募ったりしています。

一方で、個人の信条としては、その取り組みが「持続可能である」ということを非常に重視しています。持続可能性は、ファンド対象事業に関してだけではなく、個人の寄付行動や、投資行動についても、同様に考えています。世界をより良い方向に、継続的に前に進めていくには、事業を行う人だけではなく、事業を応援する、支える側の私たちのお金の出し方も、持続可能でなければなりません。

先日、こちらのブログで、「インパクト投資に関する意識調査」からの雑感 という記事でご紹介しましたが、国内ではインパクト投資の認知度はわずか6%、インパクト投資に限らず、投資経験自体がない人が過半数という状況です。いったい何がそこまで投資のハードルをあげているのでしょうか。

今回、書いた通り、セキュリテを通じてのインパクト投資は、1口数万円の小口から、非常に簡単に始められます。そして、分配金を引き出すことなく、腰を据えて取り組めば、うまくいけば半永久的に新たな出資を続けることができます。もちろん投資なので、お金が十分に戻らないこともあります(私が出資したファンドの中にも元本が割れているファンドは複数あります)ので、そこは自己責任で、「この事業なら、この社長なら、仮に事業が失敗しても、自分は納得する」という先を選んでください。

セキュリテを通じたインパクト投資の資金は、長期にわたり取り組むことで、時と場所を変えて、自分の選んだ先で社会的インパクトを創出することができます。この記事を見た方が、一人でも初めての投資に踏み出していただけたら、こんなに嬉しいことはありません。ぜひ私たちの仲間になってください。


<オンラインイベント「ミャンマーMJI年末大感謝祭」(12/29)のご案内>
さて、最後に一つご案内させてください。
以下の通り、「ウィズコロナのマイクロファイナンスとソーシャルビジネス」をテーマに掲げたオンラインイベントを開催します。
今回の記事でも言及した、セキュリテのインパクト投資のエコシステムを構成する心強い仲間たち、MJI、リンクルージョン、LIPと共に、お贈りする年末大感謝祭です。
師走のお忙しい時期ではありますが、ぜひご参加ください。

詳細・申込はこちら
https://mji2020.peatix.com/

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(ミュージックセキュリティーズ・杉山)

【ご留意事項】
当社が取り扱うファンドには、所定の取扱手数料(別途金融機関へのお振込手数料が必要となる場合があります。)がかかるほか、出資金の元本が割れる等のリスクがあります。
取扱手数料及びリスクはファンドによって異なりますので、詳細は各ファンドの匿名組合契約説明書をご確認ください。
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