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ウニを通じて「利益・環境・社会貢献」の両立を目指す

2021.07.21

海の生態系を破壊しているウニ(磯焼けウニ)を捕獲し、陸上畜養することで、高級海産物として販売でき、海の生態系も回復するという大分うにファームの取組みが関心を集めています。今年の春にセキュリテで500万円の資金調達に成功し、メディアでの露出も増えています。今回は、大分うにファームの補佐役として、様々な技術などを提供しているウニノミクス創業者の武田ブライアン剛さんに、世界で深刻化している磯焼けウニ問題にどう挑もうとしているのか、お話を聞きます。

武田ブライアン剛

武田ブライアン剛さん

日本生まれ、カナダで育ち、チリへ留学。現在は、ノルウェーに住み、オランダに本社を構えるウニノミクスに、リモートワークで勤める地球市民です。多様な文化、人々を理解し、受け入れ、独自の視点を持ちながらウニノミクスを指揮しています。


創業のきっかけは東日本大震災

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創業のきっかけから教えてください。

武田さん:

2011年3月11日の東日本大震災で発生した津波です。津波が押し寄せ地域一体を飲み込んでいく映像に目が釘付けになりました。偶然、その2年後に、私が住むノルウェーが、国としてどのように東北地方の復興支援をできるかというテーマで、外務省と通産省主催のイベントを開催しました。そこには、東北の津波被害にあった漁業者約70人が招待され、様々なアイデアを考えました。

そこで分かったことは、映像を見た時に衝撃を受けた漁船や建物の修理や再建といった問題に加えて、深刻かつ重要な問題が潜んでいたことでした。

それは、海の生態系の崩壊です。津波によりウニをエサとして捕食するヒトデやカニが流されてしまい、ウニの数が、爆発的に増えました。被災後1年間で、ウニの数は、7倍に増大してしまったのです。

その結果、何が起こったのか。ウニがエサとなる藻を食べつくしてしまい、海藻が繁る藻場が消失してしまいました。そして藻場を産卵場所・住処としていた魚の数が激減してしまったのです。業界では、磯焼け問題と言われています。

そこで考えました。ノルウェーにあるウニの陸上での畜養技術を、東北地域、その他磯焼けに苦しむ地域で応用できれば、増殖してしまったウニに商品価値を持たせることができます。さらには、陸上畜養するために海から陸へウニを運んでしまうことで、海の中のウニの数を減らすことができて、藻場を回復させることもできるのではないか、生態系を回復させる新たな産業を作ることができると考えました。3年間、試行錯誤したのち、2016年に、ウニノミクスという独立法人を作って事業を始めました。

磯焼 ウニの食害によって磯焼け状態となった海

得意技はアービトラージ(裁定取引)

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世界を舞台に活躍されていらっしゃいますが、ウニノミクスを創業される前は、何をなさっていたのですか?

武田さん:

私は、日本生まれ、カナダ育ち、大学時代は、チリに留学したこともあります。カナダで卒業後、投資銀行に就職するはずでしたが、相性が合わないかもしれないと思うようになり、一転して、大学在学中に起業しました。
抹茶のビジネスです。当時、健康志向の高まりによって、北米で日本茶の人気が高まっていく中で、抹茶はまだ日本でしか知られていなかったのです。私は、日本茶の中で最も品質が良い抹茶こそが、濃厚で栄養価も高いので、面白いと考えました。その結果、日本茶ブームに火をつけることができて、抹茶市場の開発に一役買うことができました。

その後、このビジネスは売却し、妻の母国であり、社会保障も手厚いノルウェーに、2010年に、引っ越してきました。

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それは、面白いですね。武田さんは、投資銀行とは相性が合わないと考えたものの、その後の抹茶ビジネスでは、抹茶の本質的価値と経済的評価の差に着目して、投資銀行の得意技である裁定取引をなさったわけですね。

武田さん:

そうなんですよ。日本には、価値が正当に評価されておらず、裁定取引ができるものが沢山あると思うんですよ。日本では当たり前でも、世界から見れば素晴らしいものだらけで、日本は宝箱だと思います。

私は、欧米と日本、両方の社会に接して育ってきたので、裁定取引余地を、当たり前のように探し見つける習慣ができています。実は、このウニの事業も裁定取引余地に着目したビジネスです。日本で食材として評価されてきたウニを海外のマーケットでも評価してもらえるようにしたいです。ニッチなところを見つけて広げていくのは、私の得意分野です(笑)。

「ウニノミクス」のビジネスモデル・競争環境

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起業のきっかけ、着眼点はよくわかりました。では、ウニノミクスのビジネスモデルを教えてください。どのようにビジネスを進めようとしているのか、教えてください。

武田さん:

まず現状認識です。磯焼け状態になってしまっている海の藻場を回復させるためには、藻を食べてしまうウニを海から除去しなければなりません。

しかし問題なのが、磯焼け状態のウニは、身が細って殆ど殻だけになってしまっている状態であることです。これでは、漁業者は漁獲する気になりませんし、カニやヒトデもウニを捕食しません。この結果、ウニは海に放置されたままという悪循環が続きます。

そこで、陸上畜養という技術力で磯焼けウニに商品価値をつけて高級食材にすることができれば、漁業者の方々は捕獲したら利益を得ることができるようになりますので、正の循環を起こすことができるのです。

補助金や助成金があれば、磯焼けウニを、海から一時的に除去することは可能ですが、資金援助が終われば、除去もストップしてしまいます。

うに漁業 ウニ漁の様子

ビジネスモデルとして磯焼けウニを除去する仕組みを作らなければ、持続性がありません。磯焼けウニを商品にできれば、磯焼けウニを半永久的に除去できるエコシステムを作ることができるのです。

これがビジネスモデルです。畜養したウニを高級食材として販売することによって、利益が生まれます。この利益を、漁業者の磯焼けウニの調達コストにあてたり、投資家などにリターンすることによって、みんなが、便益を受けられるビジネスを考えています。漁業者は利益を得られるし、問屋、飲食店にはウニが安定的に供給できますし、環境改善、地域貢献にもつながります。みんなで肩を並べて、環境改善しながら、おいしい水産品を作っていける。夢がかなえられるんじゃないかなあと思います。

経済学者のシュンペーターが創造的破壊と呼んだ、既存の産業をつぶして、新しい産業を作るというアメリカ型の資本主義の考え方ではなくて、既存の企業を、より強くして、さらに産業を良くしていくモデルです。

GAFAに代表されるディスラブティブ(破壊的な)革新も、テクノロジーの世界を見るといいなあと思いますが、一次産業は破壊してはいけないと思うんですよね。破壊して創造していくのがいい産業もあれば、農林水産業のように、絶対に破壊してはいけない産業もあると思います。

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農林水産業は、皆が喜ぶビジネスでなければいけないということに、いつ気が付かれたのですか?抹茶のビジネスの時ですか?

武田さん:

水産業も農業も、一次生産者は、軽視される傾向があります。今の食品産業を考えてみると、消費者と生産者の間の溝が広すぎて、有難みや感謝を伝えづらくなっています。しかし、漁業者に磯焼けウニを捕ってもらえなければ、私たちに技術があっても何もできません。

そのくらい大事な一次生産者とともに、環境に配慮し、低炭素社会を創っていきたいというのが私のビジョンです。片方だけが得をして、もう片方が損をするのでは持続的でなく、共存が一番重要です。

うに養殖

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SDGs目標を掲げるまでもなく、ウニノミクスのビジネスには、もともと、持続可能な社会実現に対する考え方が織り込まれているのですね。

武田さん:

そうですね。今までの資本主義は、利益を追求するために、環境を破壊したり、労働者を搾取したりするゼロサムモデルだったと思います。私たちは、それではいけないと思っていて、労働環境や地球環境が、より良くなるビジネスモデルじゃないと、21世紀に通用しないのではないかと考えています。

私たちのビジネスモデルには、環境改善も叶える仕組みを組み込んでいるので、成功すれば成功するほど、環境が良くなるはずです。

利益と環境改善と社会貢献の3つが揃うような事業を優先的にするようにしています。どんなに、利益が出そうなビジネスであっても、環境改善や社会貢献をもたらさないビジネスは、引き受けません。

例えば、ギリシャや南フランスでの仕事は、断りました。この地域の海では、磯焼けが発生しておらず、単にウニを養殖したいだけだったからです。この地域のウニの数は減り続けていて希少価値があるので、養殖すれば、かなり利益が出そうですが、環境メリットがないので、断りました。私たちのミッションに合わない話は全部、お断りしています。

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各地域で磯焼けのウニを畜養する同様の取り組みもあるかと思いますが、それらとウニノミクスの違いは何でしょうか?

武田さん:

磯焼け対策という世界共通の課題に対して、地域、国をまたいで連携をとりグローバル戦略が出来上がっていて、サプライチェーンから販売戦略、販路も揃っているところは、なかなかないんじゃないかなあと思います。

なぜ、このような差をつけられたのかというと、私たちの飼料技術は、ノルウェー国立水産研究所から来ています。冒頭お伝えしたように、東日本大震災に被災した漁業者を支援するアイデアとして話が持ち上がり、東北だけに留まらず全国・世界中の磯焼け対策というミッションを追求すべく巨額の研究開発費を使った技術を独占的に使うことができるようになりました。

それに加えて、世界最先端の陸上畜養技術、さらには、世界に約20人いる海洋研究者とのネットワーク、こういったところが、他の取り組みとの差別化につながるのではないかと考えています。

うに漁業 閉鎖循環システムを用いた陸上畜養

「磯焼け問題」を伝えながら世界展開

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ウニノミクスは、本社が、オランダにある企業だと聞いていますが、どんな世界戦略を描いているのでしょうか。

武田さん:

第一に、磯焼け問題の認知度をあげるのが、大きな目標です。
最新の研究リポートを読むと、世界の藻場の40-60%が既に消滅してしまっています。

地球のエコシステムの中で、藻場は、本当に重要な役割を果たしているんです。アマゾンの森林よりも40倍以上の価値があると言われているんです。この事実を、誰も知らないんですよ。

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アマゾンの森林の40倍以上の価値があるのですか。

武田さん:

生物・生態系由来で、人類が恩恵を受けることができるものを、エコシステム(生態系)サービスと言うのを、ご存知でしょうか。大きな価値があり、保全すべきものです。計算によって、人類に与える便益の大きさを、貨幣に換算することができます。最新のリポートによりますと、1ヘクタールの藻場の環境価値が22万ドル(2400万円)です。熱帯雨林は、1ヘクタール5千ドル(60万円)です。こうして比べると、藻場の価値は熱帯雨林の約40倍なんです。

藻場を作り出す生態系というのは、本当に豊かでかけがえのないものなのですが、その藻場が世界で半分以上消失しているという衝撃の事実の認知度を、まず上げなければいけないと考えています。

では、世界での展開の仕方についてです。ウニノミクスの立場のみを考えれば、まずは日本でビジネスの地盤をしっかり固めてから海外進出というのが通常のセオリーです。しかし私たちは、自分たちだけではなく、世界の為に働きたいので、海外展開を同時並行で進め各地へ知見を共有して地盤固めをしていきます。

うに漁業 陸上畜養の様子

カナダ、アメリカ、ノルウェー、台湾などでも、できるだけ早く技術を定着させて、一気に世界規模のビジネスを広げたいです。今の段階で、カナダ、アメリカ、ノルウェーに進出することは、経済的に合理的な判断ではないかもしれませんが、弊社の株主は理解があり、利益、環境、社会貢献全てを両立できる地域への進出を応援してくれています。今、進出することで、私たちのビジネスが世界に貢献できるようになることを目標としています。

ここで誤解のないように、お伝えしておきたいのは、私が代表をつとめるウニノミクスは黒子であり、一番大事なのは、現地のパートナーだということです。今回、大分うにファームが、セキュリテで資金調達しました。その立役者は、私たちではなくて、栗林正秀社長です。私たちは、栗林さんの補佐役で、畜養技術などを提供しているにすぎません。漁業権を持っている漁業者や、漁業者をまとめてくれる地元のパートナーなど、現地の力がないと、ビジネスは動きません。現地で志を持って起業した方々が成功するために、ウニノミクスは全力で努力します。

というわけで、世界進出のスピードというのは、現地のパートナー、漁業者の方々、共同研究している学者、政府などの要因によっても変わっていくと考えています。

大分うにファームそしてミュージックセキュリティーズへの期待

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日本では、今、お話に出た大分うにファームのファンドを、セキュリテで募集しましたが、今後、日本での展開を、どう考えていますか?

ファンド
大分 海の生態系を守るウニ畜養ファンド

武田さん:

できるだけ早く私たちの技術が、社会と環境に貢献できるようにと考えていて、大分を皮切りに、全国4-5か所で、準備を進めています。

既に工場を建てるための資金手当はできているので、地域での合意が得られれば、展開をしていくつもりです。

ミュージックセキュリティーズとの協業では、色々、学ばせてもらっています。
大分うにファームが生産する商品を、セキュリテストアで販売し、うまくいくといいですよね。それができたら、これから日本の他の地域で展開していくプロジェクトでも組んでいきたいですね。

【ご留意事項】
当社が取り扱うファンドには、所定の取扱手数料(別途金融機関へのお振込手数料が必要となる場合があります。)がかかるほか、出資金の元本が割れる等のリスクがあります。
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