KFアテイン株式会社は、2005年に創業した東北初の塗料メーカーですが、東日本大震災では製造設備の全壊等大きな被害を受けました。震災後、セキュリテ被災地応援ファンド「
KFアテイン雪滑り塗料ファンド」を通じて450人から約2000万円を調達し、マイナスからの再建に挑戦してきました。KFアテインの塗料はその品質が高く評価され、NEXCO東日本等の除雪車に採用されるなど、着実に売り上げを伸ばし、3年前からは営業利益も計上できるようになりました。
本ファンドは、震災からの次の10年を迎えるにあたり、塗料メーカーであるKFアテインが更なる発展を目指すため、塗装サービスの新規事業を立ち上げ、塗装工場を取得するためのファンドです。総額1億円を、条件の異なる「
最強錆止「雪王」「鉄王」新事業ファンド1」、「
最強錆止「雪王」「鉄王」新事業ファンド2」、「
最強錆止「雪王」「鉄王」新事業ファンド3」の三つのファンドによって、調達を目指します。(なお、本ファンド対象事業の実施にあたっては、営業者の代表者が新会社を設立し、会計期間開始までに営業者は本ファンドに係る契約上の地位及び権利義務を新会社に譲渡することを予定しています。)
事業の成功とは「あきらめが悪い事」
「倒産」の勧めには耳を貸さない
2005年に代表の川又貴仁氏が創業した東北初の塗料メーカーであるKFアテイン株式会社は、スキーワックスで用いている技術を応用し、塗膜表面に滑り性を持たせることで表面に付着する物を滑り落とすことができる性質の塗料の開発に成功し、船底塗料「海王」や屋根用塗料「陸王」、重機用塗料「雪王」「鉄王」等を開発してきました。
しかし、商品開発や製造設備への投資を行い、技術が形になった矢先の2011年3月、東日本大震災で被災してしまいます。社員の命だけは助かりましたが、塗料の製造設備一式、原材料、商品在庫、事務用品一式、営業車等、会社のほぼすべてを失いました。一方で、先行投資に伴う既存の銀行借入れはそのまま残り、大きなマイナスからの再スタートを余儀なくされました。
震災後は、専ら外部委託により塗料の製造を行っていましたが、震災から5年目となる2016年、仮設事務所の退去期限も迫る中、KFアテインは、再び塗料の製造を自社で行うため、製造設備を備えた新社屋の建設を目指しました。事業計画を作成し、根気強くバンクミーティングを重ねましたが、メインバンクからは工場建設案は認められず、メインバンクからの支援がない状況では他行も積極的に融資することはできませんでした。金融機関に頼らず、違う方法をと個人投資家からの支援も募りましたが、ある支援機関より工場建設をしたら支援を打ち切るという話があり、断腸の思いで、計画を断念せざるを得ませんでした。
この頃、銀行からの資金調達が思うようにできず、技術や開発費に投資することはおろか、仕入れ資金のための融資も断られ、短期融資は返済を迫られ、経営的に非常に苦しい時期でした。当時、川又氏が相談をした数多くの専門家と言われる人々から一番多く勧められたことは「倒産」、「破産」でした。起業してから時間がかかり過ぎていて再生は不可能であり、一度リセットするか、技術の売却を検討してみてはとの見解でした。
しかし、「諦めた先に何が生まれるのでしょうか」と川又氏は言います。この世にない技術開発を無謀と言われながらも少しずつ形にしながら、これまで来ているのです。諦めず前に進む事こそが成功の近道であり、進むべき道だと川又氏は強く信じていました。
13期目に遂に営業利益を計上
銀行からの支援も断たれ、自社製造、自社工場を断念したことで、一時は暗闇の中に放り出されたようでした。ともに戦ってくれた社員にも退社してもらうという苦渋の選択を迫られました。裸一貫で再スタートし、川又氏ひとりで営業、販売、出荷、開発、製造、経理、総務、その他社長業とすべてを行いながら、被災地応援ファンド「KFアテイン雪滑り塗料ファンド」の出資者に対しても追加の支援を訴える等、事業の継続、成長のために一心不乱に取り組み、活路を模索していました。
すると出資者の何名かは川又氏の呼びかけに応え、株主として追加の支援をしてくれたのです(※セキュリテのファンドは、匿名組合への出資を行うものであり、会社の株主になるわけではありません)。この時調達した1,000万円と出資者の存在が、当時のKFアテインと川又氏の大きな支えとなりました。
「やれる人間がやればいい、できるところがやればいい」と、川又氏は発想を転換し、製造設備の工場を入れなかったことをプラスに変えていきました。全部アウトソーシングすることができれば事業は回るのではないかという考えのもと、人も採用せず、自身は営業と経営に徹し、その結果、利益がでる体質になってきました。
そして2017年、13期目にして初めて営業利益を計上することができました。KFアテインの決算月は1月ですが、2019年度は一部の売上が期ずれを起こし減収減益となりましたが、2020年度は5月までに既に累計売上2,000万円を超える実績を出しています。今期は、暖冬や新型コロナ感染症の影響を考慮し業績予測を下方修正しましたが、引き続き、営業利益にはこだわり、今期営業利益1,000万円を目指します。
(1月決算)
塗料は、塗って乾いて固まらなければ、ただの液体である
川又氏がここ数年、意識して取り組んできたことの一つが、塗料販売という単なる「モノ売り」から、塗装サービスという「コト売り」への拡充です。塗料は、被塗物に塗って乾いて固まって初めて効果を発揮するのであり、そうでなければただの液体です。
特にKFアテインのつくる塗料は、汎用塗料ではなく、雪滑り機能を持つプロ向けの機能性塗料です。塗料の中には、機能を発現するための成分が複数入っているため、その分価格も高く、また塗装するにも技術が求められます。塗料の性能は、塗膜の膜厚によっても変わってくるため、塗装の際は、塗料の希釈具合や温度管理に加え、どれぐらい時間を空けて何回塗るか、膜厚を管理する必要があるのです。
塗装をしっかりやろうとすると、非常に手間暇がかかります。例えば、スプレー塗装をする際、タンク、容器に塗料を入れます。入れた塗料を均一に保つため、常に一定の撹拌をしながら作業を行う必要がありますが、一人の人が一台全てを対応するため、スプレーして、撹拌して、スプレーして、撹拌して、と言った具合です。
しかし、手間がかかる為、こうした作業をあまり好まないのが、実際に塗装を行う整備会社です。何故なら、回転率が下がるからです。機能を発揮させたいメーカーと回転率を上げたい整備会社の考えは相反するものがあります。塗装というと簡単なイメージがあるかもしれませんが、塗料のことを熟知した人でなければ、十分に効果が発揮できず、そのため塗料を熟知したメーカーが行うことで塗料本来の性能が発揮できるのです。
自分たちの塗料を自分たちの手で塗装して塗膜のサービスを提供し、クレーム対応まで含め、塗料のメーカーが塗料の品質の保証までする、ということができれば大きな強みになります。そこで、せっかく付加価値の塗料を売るのであれば、塗装の仕事も一緒に受けようと、3年ほど前からその仕事も少しずつ始めていました。
「グローバルニッチトップ」を目指す
しかし、塗装の仕事も一緒に引き受けたものの、実際には塗装を施すのはKFアテインではなく、KFアテインが委託する提携先の会社です。
現状では、KFアテインは、北海道の塗装会社をメインに仙台の会社を含め、3社に委託していますが、それに伴い根本的な課題が生じています。北海道の会社の場合、距離の問題で、仕上がりのチェックができないのです。もちろん信頼できる先ですが、これでは塗膜のサービスにつながりません。仙台の会社の場合、もともと新車への塗装をしていた会社ではないため台数をこなすことができず、日数もかかるため、売上が上がっても利益が出ず、これでは成り立ちません。それであれば、自社工場をつくって、自社で塗装をしたらいいのではないか、というのが本ファンド募集の背景になります。
KFアテインのつくる雪滑り塗料は、非常にユニークな技術であり、国内だけでなく、世界を見ても川又氏の知る限り、他に例がありません。また、そのマーケット自体も非常にニッチであり、国内においては、利用するのは主に国や高速道路の管理会社、自治体などに限られています。さらに、塗装サービスまで実施する塗料のメーカーというのも他にありません。このようなニッチなマーケットにおいて、世界のトップを目指す、それが現在、KFアテインが掲げる目標です。
特許も取り、「雪滑り技術」においては日本一を自負する川又氏ですが、技術は越されていくものであり、どんどん進化するものなので、特許自体にそれほど意味はないと言います。世界を視野に入れた時、雪の結晶(気温、湿度のよって変化)が変われば「雪滑り性能」も変わります。現在の技術でもおおよそ対応が出来る仕様にはなっていますが、どんな雪に対しても同様の「滑り性能」を追求することで、日本一から世界一が見えてきます。もちろん、自社製品の技術力向上・滑り性能の進化のために、国や県、大学等と連携した産学官連携の研究や実証テストの取り組み等、KFアテインに余念はありませんが、同時に、もしもに備えて、この技術を真似された時に、どうやって守ればいいかということも考えています。その解の一つが、塗膜のサービスです。同じ性質の塗料であっても、塗り方や膜厚について規格で縛ることよって自己防衛ができると考えています。
これまでKFアテインにとっての技術力とは、塗料の配合レシピ及び製造方法でしたが、今後はそこに塗装による塗膜保証のサービスが加わります。技術力の強化を進め、世界を舞台に「滑り技術」を制する企業へと、本ファンドを通じて、KFアテインは大きな夢にまた一歩近づきます。
銀行に頼らなくていい経営を目指す
セキュリテ被災地応援ファンドの出資者の存在
KFアテインが本当に資金に困った時、手を差し伸べたのは、メインバンクではなく、セキュリテ被災地応援ファンド「KFアテイン雪滑り塗料ファンド」を通じて出会った、それまで会ったこともない個人の方々でした。
KFアテインは、震災当時から債務超過であり、震災以降は既存借入について返済条件の緩和等の金融支援を受けています。通常、そうした状況において、元本保証をしている預金者のお金で融資を行う銀行が無力化してしまうのは、やむを得ないことです。しかし、一方で、個人の方々は、そうした状況においても、個々の責任でKFアテインの理念や川又氏の思いに耳を傾け、事業の可能性を信じ、ファンドに出資することができます。
川又氏にとって、ファンドの出資者の存在は、事業の存続に必要不可欠なものでした。そして、ファンドや追加の支援を通じて、「計り知れないほどの人の温かさ、優しさ、強さを感じる事ができた」と言います。この方々に頂いたご支援に対し、恩返しをすること、まずは、しっかりと事業に取り組み、既存のファンドを通じて、必ず分配金をお支払いすることをこの8年間、考えてきました。
2020年3月31日には、セキュリテ被災地応援ファンド「KFアテイン雪滑り塗料ファンド」の全10回のうち、第8回目となる決算日を迎え、1口5,000円の出資金に対する分配額は累計4,852円というところまできました。このファンドは、資本性ファンドで期末一括償還となっているため、まだお支払いはしていませんが、来たるべき日に確実にお支払いできるように、数年前から計画的に準備を進めています。KFアテインは、残り2年間でさらに売上を上げ、出資者の皆さんへのご恩にしっかりと応えて、次につなげていきます。
(マイページより抜粋)
今回のファンドの仕組み
KFアテインが、自社の塗装工場を建設したいと考えた時、資金調達方法としてまっさきに考えたのは、セキュリテのファンドの活用でした。震災後に募集した総額2,000万円の「KFアテイン雪滑り塗料ファンド」と比べると、今回必要な資金はその5倍の総額1億円。KFアテインにとっては、かなり高いハードルになります。
セキュリテでは初めて、総額1億円を、条件の異なる3つのファンドに分解し、個人の方がご自身の状況によって、条件を選べるように設定しました。次の10年をしっかり支えて頂く資本性の高い1口100万円、10年間のファンド、手軽に支援ができる1口2万円、3年間のファンド、そして、その中間となる1口10万円、7年間のファンドの3つです。
2021年には、東日本大震災から丸10年を迎えます。ぜひKFアテインの次なる挑戦を支え、また次の10年も共に歩んで頂けますよう、何卒宜しくお願いいたします。
営業者紹介
KFアテイン株式会社
<事業内容>
船舶用塗料、添加剤の開発・製造・販売
屋根用塗料、添加剤の開発・製造・販売
重機用(除雪車)塗料の開発・製造・販売
スキー・スノーボードワックスの開発・製造・販売
<沿革>
2005年10月 会社設立
2007年4月 船舶塗料・商品化着手
2007年10月 防汚塗料及び塗料・特許出願
2008年6月 宮城県経営革新事業承認
2008年12月 船舶塗料添加剤「海王2008」販売開始
2009年4月 宮城・仙台富県チャレンジ応援基金事業助成金
2009年5月 船底塗料「ハイパー海王」販売開始
2009年6月 国内特許取得 第4319698号
2009年8月 宮城県新商品特定随意契約制度(船底塗料)
2009年11月 七十七ニュービジネス助成金 金賞(受賞概要
(PDF)、受賞者インタビュー
(PDF))
2009年12月 スキーワックス販売開始
2011年8月 重機用塗料「雪王」販売開始
2011年10月 宮城県新商品特定随意契約制度(重機用塗料)
2011年12月 宮城・仙台富県チャレンジ応援基金事業助成金
2012年11月 東日本大震災復興支援新技術開発助成2012
2013年10月 東北開発記念財団 起業家支援事業援助金 採択
2014年12月 平成25年中小企業・小規模事業者ものづくり補助金 採択
2016年7月 平成27年補正ものづくり・商業・サービス新展開支援補助金
2018年7月 30年度宮城県新規参入・新産業創出等支援事業費補助金(地域イノベーション創出型)
<HP>
http://www.attain-oosamapeint.com/
代表取締役 川又貴仁
日本企業の90%以上が中小企業で成り立っております。
その中小企業も人口減少や後継者不足の危機に陥っていると耳にします。我社も例外ではありません。
しかし、我社にはオンリーワンの技術、「滑る技術」があります。今までも問題視されながら解決には至っていない雪滑りの技術、屋根の雪下ろし作業で毎年100名もの方々が亡くなっている現状を目の当たりにし、我社が持つ屋根の雪下ろし作業が不要となる商品「陸王」を1軒でも多くの屋根に塗装すること、滑りに特化した商品開発を進め、もっとより良い商品をお客様へ提供すること、塗料(液体)を提供するのではなく、塗料(塗膜)として提供することこそ、我社の強みでもあり、中小企業の心意気だと思います。
その心意気を世界へ発信することでグローバルニッチトップ企業へと成長致します。
本事業のSDGsへの貢献