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社長コラム2009年11月19日 16:12

「肝属(きもつき)川」を想う

株式会社 トップライン
代表取締役 中村 義幸
 

「川」と聞いて想い浮かぶ光景は人によって千差万別だと思う。同じ河川でも河口部と源流部とでは、生態系を含めてまったく違う表情をみせる。また、普段穏やかな流れを見せている身近な川も、豪雨時には恐ろしい様相に急変する。

全国に109ある一級河川の中で最南端を流れる肝属川は、水を一杯たたえて悠然と流れる姿とは程遠い。排水路と見間違えそうな箇所もある。高隈山系に端を発し、波見・柏原に至るまで34kmと長さは九州管内の一級河川20本中19番目と短く、勾配がきついためである。この短い肝属川に支川が35本もあるという。

肝属川をはさんで、今でも隣接町の飛び地が結構みられる。昔、川を行政区の境界としていた時代のなごりである。現在のように捷水路(ショートカット)や堤防の整備が充分ではなかった頃は、暴れ川として流域は水害に悩まされた。特に、昭和13年には259名もの犠牲者を出している。

また、肝属川流域には弥生時代・古墳時代の遺跡やクマソ・ハヤトに関する神話、神武天皇にまつわる伝承が数多くあり、古くから人々の生活に関わってきたことがわかる。江戸時代には河口部は内外の貿易船で活況を呈したそうだ。全国に名を馳せた商家もあった。後に、肝属川の一部を利用して志布志湾と錦江湾を運河で結ぶといった壮大な計画もあったと聞く。昭和30年、支川である串良川の上流に高隈ダムの建設が着工され、灌漑事業完成後は笠野原台地に大きな恵みをもたらした。さらには、ノボリコ(ウナギの稚魚)捕りのシーズンには河口付近に灯りがずらりと並び、その光景は風物詩となっている。

長年にわたり歴史・文化・経済を育んできた肝属川の、文句もいわずに全てを受け入れてきたその姿には頭が下がる思いだが、昨今では水質汚濁がすすみ、九州でもワースト上位の常連になってしまった。家畜の死骸が流れていることもあるという。

汚濁源として畜産廃水に起因するものが約1/2、一般家庭からの生活廃水に起因するものが1/4を占めている。川面が泡立ったり、悪臭を放つ場面も稀に見られる。流域の自治体や農協では畜産環境センターや堆肥センターを整備したり、公共下水道整備や小型合併処理浄化槽の設置に力をいれて汚名返上に躍起になっている。「川は、流域に住む人々のこころの鏡」という言葉を聞いたことがあるが、今の状況を考えると私共、流域住民の意識改革が急務なのかもしれない。現に、行政に頼らず汚染防止に取り組む市民グループが様々な形で立ち上がってきているのは朗報といえる。各種団体単独での活動には限界がある。行政レベルでの連絡協議会はあるようだが、同じ流域に住むものとして対立構造ではない、行政と市民の分け隔てのない横のつながりが今後の課題となる。

長年、治水事業と環境保護は相反するものといわれてきた。しかしながら、その後の時代的背景や社会構造の変化に伴い、近年、河川制度をとりまく状況も大きく変化した。河川は単に治水や利水の役割を担うだけでなく、潤いのある水辺空間や多様な生物の生息・生育環境として位置付けられ、また、地域の風土と文化を形成する重要な要素としてその個性を活かした川づくりが求められてきている。

極論かもしれないが、長い目で見ると小さな生き物が棲息できないような環境は、人間にとっても望ましくない環境といえる。

明治二十九(一八九六)年の旧河川法から続く「治水・利水第一主義」の方針を、旧建設省は実に百年ぶりに転換し、平成九(一九九七)年に改正された河川法には、環境保全への配慮が盛り込まれた。河川行政に「多様な生物の棲む環境としての河川」という新たな視点が加わった瞬間である。地域住民と川との垣根を低くして親水機能をもたせた、いわば共生の時代にふさわしい新工法も着手されている。

これまでの防災機能を維持しながら自然環境を復元する河川工事の手法「多自然型工法」だ。肝属川においても新工法による整備が相当すすんできている。

役所が発注する工事を、業者がただやるだけだったのは過去のこと。これからの時代はそうはいかない。ノウハウを持っている土木業者が環境と調和した川づくりの一翼を担う。単なる発注者と受注者の関係ではなく、受注者も提案型企業となって、市民の目線で取り組む姿勢が必要となる。そこには、工事の完工が終わりではなく、始まりなのだという意識も求められる。多様な生物を育む河川と地域住民との共棲と調和が生まれたときに初めて完工したといえる。このことは、この新工法が画一的なものではなく、現場の数だけバリエーションがあることを示している。言い換えれば環境調和型の工法に「絶対」というものがないことを提起している。これからの時代は、多自然型工法が普通の方法と呼ばれるのが望ましい。

せっかく、親水機能をもった環境調和型の護岸が出来ても肝心の水が汚くては、生物はもちろんのこと人々も寄り付かない。本当の意味での工事の完成には流域住民の協力が不可欠である。川に対するイメージは、子供時代に経験した原体験に基づくものが多いと思う。子供に川の絵を描かせると、日本の子供達は水色の美しい川の姿を描くという。これは世界的に見ても珍しいことらしい。子供達は正直だ。地域の川に入れば直感的に足の裏できれい・きたないを感じ取ってしまう。肝属川流域の子供達が、妙な川の絵を描きはじめない内に、自分達の世代で汚したものは自分達の世代で修復すべきだろう。

日本は古来、秋津島・瑞穂の国と呼ばれ山紫水明の幽玄な美しい国とされてきた。やはり、身近には美しい川があって欲しい。また、私達にはきれいなまま次世代へ受け渡す責任がある。

 

 
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